その日の放課後の、帰り道。
「坂谷ぃ~」
と、また、追いかけてくる声がした。
岩倉さんだった。
彼女は、これまた、ずいぶん怒っている。そういえば、付き合ってから、彼女に怒られてしかいない。
「どうして先に帰っちゃうの? 待っててくれると思ったのにっ!」
「待っててくれとは、言われなかったからね」
「はぁ? 信じられない! 男は普通、女の子を待つものでしょ? そのぐらい、わからないの?」
「ごめん。だって、嫌われていると思ったから」
「はぁ? どうして?」
「だって、ついさっき、君のクラスに行ってノートを返してもらおうとしたとき、キモイとしか言われなかったから」
「あれは、だって」
「それに君は、君の友人と一緒になって、ぼくのことをキモイと言ってたんだよ。ぼくには声もかけずに、友人と一緒になって、ぼくのことを非難していた。だから、ぼくは嫌われたんだと思ったんだけど」
「それは、しょうがないじゃん! 私にだって、私の都合があるの! いきなり入ってきたら、誰だって嫌でしょ? それに友達の前でそういうことするなんて、バカだと思われるし! わからない? 常識で考えて!」
「ただ、ノートを返してもらおうとしただけだよ」
「とにかく、友達といるときに来るのはやめて! 迷惑だから!」
少女は、カバンからノートを出すと、少年につき返した。
「それから、今度は世界史のノート、貸して!」
「なんで?」
「なんで? 勉強するからに、決まってるでしょ? アンタ、私と東京行く気ないの?」
「いや、そんなことは……」
「もっと、ちゃんとしてよ! もう、ほんっとに、ガキなんだから。いちいち私を怒らせないでよ!」
岩倉さんは、やはり、少年の世界史のノートを取り上げると、肩をいからせて、さっさと帰ってしまった。
ぼくが、悪い……
まったく歯車があっていない。
彼女は少年に、大人の対応を求めている。だけど、彼女が求める大人の対応ができずにいる。それが、歯車の噛み合わない原因だと、思う。
少年には、思い描いていた恋人像があった。ふたりで並んで歩いて、笑いあって。
勉強を一緒にしようと提案されれば、少年は全力で少女に勉強を教えるつもりでいた。
いや、学校の勉強しか知らないこの少年より、彼女のほうが、知っていることが多いだろう。それを、彼女に聞いてみたりしたかった。
少年は、目の前が暗くなった。
今は、聞ける雰囲気でもない。
聞けばきっと「キモイ」の三文字が返ってくるだろう。
今の少年には、この状況を、どうすることもできない。
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