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風待くだもの店~その5~

更新日:2021年6月5日




その日の放課後の、帰り道。


「坂谷ぃ~」


と、また、追いかけてくる声がした。

岩倉さんだった。

彼女は、これまた、ずいぶん怒っている。そういえば、付き合ってから、彼女に怒られてしかいない。


「どうして先に帰っちゃうの? 待っててくれると思ったのにっ!」


「待っててくれとは、言われなかったからね」


「はぁ? 信じられない! 男は普通、女の子を待つものでしょ? そのぐらい、わからないの?」


「ごめん。だって、嫌われていると思ったから」


「はぁ? どうして?」


「だって、ついさっき、君のクラスに行ってノートを返してもらおうとしたとき、キモイとしか言われなかったから」


「あれは、だって」


「それに君は、君の友人と一緒になって、ぼくのことをキモイと言ってたんだよ。ぼくには声もかけずに、友人と一緒になって、ぼくのことを非難していた。だから、ぼくは嫌われたんだと思ったんだけど」


「それは、しょうがないじゃん! 私にだって、私の都合があるの! いきなり入ってきたら、誰だって嫌でしょ? それに友達の前でそういうことするなんて、バカだと思われるし! わからない? 常識で考えて!」


「ただ、ノートを返してもらおうとしただけだよ」


「とにかく、友達といるときに来るのはやめて! 迷惑だから!」


少女は、カバンからノートを出すと、少年につき返した。


「それから、今度は世界史のノート、貸して!」


「なんで?」


「なんで? 勉強するからに、決まってるでしょ? アンタ、私と東京行く気ないの?」


「いや、そんなことは……」


「もっと、ちゃんとしてよ! もう、ほんっとに、ガキなんだから。いちいち私を怒らせないでよ!」


岩倉さんは、やはり、少年の世界史のノートを取り上げると、肩をいからせて、さっさと帰ってしまった。


ぼくが、悪い……


まったく歯車があっていない。

彼女は少年に、大人の対応を求めている。だけど、彼女が求める大人の対応ができずにいる。それが、歯車の噛み合わない原因だと、思う。


少年には、思い描いていた恋人像があった。ふたりで並んで歩いて、笑いあって。

勉強を一緒にしようと提案されれば、少年は全力で少女に勉強を教えるつもりでいた。

いや、学校の勉強しか知らないこの少年より、彼女のほうが、知っていることが多いだろう。それを、彼女に聞いてみたりしたかった。


少年は、目の前が暗くなった。

今は、聞ける雰囲気でもない。

聞けばきっと「キモイ」の三文字が返ってくるだろう。

今の少年には、この状況を、どうすることもできない。




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