こんにちは。八百屋テクテクです。
今回は、私が福井のスーパーで働いていた時のことについて語っていこうと思います。福井のスーパーで働こうと思っている人の、なにか参考になればと思います。
ちょうど昨今、ビッグモーター社による、街路樹への除草剤散布が話題となっておりますが、この事件が取り上げられた時に思い出したのが、私が福井のスーパーで働いていた頃に、畑に除草剤を撒いてこい、と上司に命令されたことです。
除草剤を撒くのは、ライバル会社と取引している農家さんの畑にです。
除草剤を撒いて農作物を枯らし、ライバル会社にダメージを与えようという作戦です。もし実現していたとしたら、怖い話ですね。私は逮捕されて、今頃八百屋さんとしては働いていなかったでしょう。
どうして、こんなことになってしまったのか。順番に詳しく見ていきましょう。
「酒井。お前どうして地物のニンニクを仕入れねえんだよ」
話は、そう高圧的にはじまります。
スーパーに並ぶ地野菜というのは、あらかじめ声をかけている農家さんの野菜に限られます。いきなり持ってきても、支払いができないですからね。そのほか、売れ残った時の取り決めとか、あらかじめ打ち合わせておくことがいろいろあります。また、農家さんだからといって、野菜が全部作れるかというと、当然そんなことはありません。農業で本格的に商売しようと思っている人は、1軒で1品目です。リンゴ農家さんとか、みかん農家さんは、そうなりがちです。その方が効率がいいからです。多品目ほど趣味の領域になってきます。コスパ度外視でいろいろ作っている人でも、だいたい10品目程度です。一方で、スーパーが取り扱っている野菜果物の品目は、だいたい200~300種類あります。
白菜や大根など、よくある野菜は生産している農家さんも多いのですが、細かい品目まで調達しろと言われても、一筋縄ではいかないのです。
「なんで調達できねえんだよ! ほかのスーパーでは売ってるぞ!」
そんな、こちらの怠慢のように言われても、できることとできないことがあります。
それに、地元のニンニクがあることが、店全体の売り上げにどれほど貢献するのでしょう? どれほど宣伝効果が期待できるのでしょう? 思い付きで言われても、調達が大変なわりに効果が薄いのでは、やる意味がないのです。ましてや、こちらは月100時間を超えるサービス残業をさせれられているのです。だいたい平均朝5時から夕方18時まで、長いと21時までお店にいるのです。日々の業務量で、それだけになります。お取引やお打ち合わせをお願いする時間的余裕もないのです。
「ニンニクぐらい、そのへんの畑にいっぱいあるだろ。なんで盗んでこねえんだよ!」
スーパーで働く人の、野菜や果物に対する理解が浅いのが、そう考えてしまう一因だと思います。
野菜や果物は、種を蒔けば地面から勝手に生えてくるので、農家さんはそれを採ってきて売るだけ。そう考えている人が多いのです。
なので、「枯れても、どうせまた生えてくるだろう」という思考になりがちなのです。需給のバランスで値段が高騰したときなどは、「ただ採ってきただけのものに、こんな値段つけやがって」と、不満に思う人も多いです。これは、スーパーで働く人の感覚が消費者側に近く、また常日頃から「お客様目線で」と教育されているためでもあります。お客様目線に立っているので、プロとして知っておくべきことも、知らなくても平気でいれるのです。「そんな事情、お客様には関係ないだろう」を大義名分にして。
野菜は、畑で勝手に生えてくるもの、という意識があるので、盗ってくる、という思考に繋がるのです。罪の意識などありません。
「野菜泥棒も、泥棒なんですよ」
「夜にいけば誰もいねえだろ。ニンニクぐらい、ちょっと行って、ちょっと盗ってくるだけだろうが。なんでできねえんだよ!」
「私にはできません。他の人にいってもらってください」
「スーパーの店員のくせに、警察が怖いんか!」
福井のスーパーでは、命令を下す時、警察が怖いんか、が合言葉のようになっています。そう考える管理職は多いと思います。理不尽なパワハラ、セクハラ時代を生き抜いた人たちで、自分たちもそのように言われてきたわけですから、そういう思考にもなるのでしょう。
ようは、遵法精神が薄いのです。福井のスーパーではサービス残業が当たり前に行われていますが、これは労働者に支払うべき給料を支払っていないということです。その時間は、平均でも月間100時間をゆうに超えます。時給1000円として計算したとしても、月間10万円を支払っていないことになるのです。月間250時間のサービス残業をしていた社員もいたので、この人にとっては月間25万円です。25万円を、会社は盗んでいたことになります。
たかが1個300円のニンニクぐらい、この額に比べれば、どうということはありません。
「盗るのがいやなら、枯らしてこい! 勝手に枯れたのなら犯罪になんねえだろ」
「枯らすとは、どうやって」
「除草剤かければ一発だろ。大学も出たのに、そんなこともわかんねえのか!」
「そんなこと言ったって、近所の畑に全部撒くんですか? 沢山ありますけど」
「お前がその農家調べろや! それがお前の仕事だろうが!」
「相手もわからないのに、どうやるのですか?」
「そのスーパーに、地元の新聞社のふりして電話かけて、農家さんを聞き出せばいいだろ。取材させてほしいとかなんとか、嘘つけばいいんだよ」
「ちょっと、それはできないですね」
「できねえできねえばっかりで、本当に使えねえな! じゃあ俺が電話かけて、その農家を特定してやるよ。特定したら、お前除草剤撒いてこいや。わかったな!」
上司はそう言うなり、お店の固定電話から堂々と競合店に電話をかけました。地元の新聞社の名前を騙って。
騙りは、それはそれは慣れたものです。自分のことを新聞社の記者だと信じ切っているように、すらすら言葉が出てきます。
が、しばらく話をした後、上司は無造作に電話を切りました。
「教えてくれんかったわ」
これで、この話はナシになりました。
相手のスーパーにとっては、この手の不審な電話は日常茶飯事だったのでしょう。もしくは、この上司が新聞社の名を騙って電話したことは、過去にあったのかもしれません。
上司は、気に入らない顔をしていましたが、私は内心、救われた思いになりました。
私は、福井のスーパーに、業務命令として、犯罪を指示されました。もし、上司が農家さんの居場所を聞き出すことに成功していれば、私は除草剤を撒きにいかなくてはいけなかったでしょう。断れば、命令違反です。不正を訴える窓口なんて、大手企業だけのものです。福井のスーパーにはありません。つまり、福井のスーパーは、不正や犯罪をし放題なのです。
下の立場の者に犯罪をやらせて、発覚すれば、知らぬ存ぜぬで通すつもりです。この上司の口癖は「冗談だった」と「お前を試したんだ」でした。こうして、責任を逃れつつ、下の立場の人間を使って不正や犯罪を犯して、自分の評価に繋げていくのです。
そんな私を救ってくれたのは、競合店のスーパーでした。
福井のスーパーは私を犯罪者にさせようとしましたが、競合店である京都のスーパーは、それを阻止してくれました。私がもし除草剤を撒いていたら、八百屋テクテクとしての私は存在していなかったでしょう。自分の利益のために他人の農作物を枯らした人間に、八百屋を名乗る資格などないのです。除草剤を撒いた時点で、野菜の仕事に携わる資格を失っていたでしょう。「あの人は、除草剤を撒いた人だ」と、言われ続ける羽目になっていたでしょう。
不思議なものです。私は福井を愛していましたが、その福井のスーパーによって、私の八百屋さんとしての未来は閉ざされようとしていました。でも、競合店である京都のスーパーによって、未来を救われたのです。京都のスーパーが、閉じようとしている私の扉を、抑えてくれたのです。
ビッグモーター社では、会社に言われるまま街路樹に除草剤を散布した社員が、警察に逮捕されたそうですが、私もまた警察に逮捕されていたかもしれません。ビッグモーター社だけではなく、他の会社でも、会社の命令を忠実にこなした結果、逮捕や摘発されるといった事件が多発しています。規模の大小にかかわらず、たびたび法律を違反する会社が世の中には存在しており、そういう会社に就職した社員は、法律違反を命令される、ということを覚えておかなくてはいけません。
命令を聞けば逮捕され、命令を聞かなければ激詰めされて評価を下げられる。不正を告発する窓口もない。
そんな会社に入れば、良心を殺し、不正に手を染めながらロボットのように働くことが求められます。それが嫌なら、ちゃんと勉強をして、都会のちゃんとした会社に入る。これが大事なのだと、私は思います。
こんな目に合いたくなかったら、勉強をしましょう。
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