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スピッツ「Na・de・Na・deボーイ」は、バイト先の美人社員に怒られた話説。



こんにちは。八百屋テクテクです。

今回は、スピッツ「Na・de・Na・deボーイ」について解釈していきたいと思います。

この曲は、マサムネさんの気持ちを、めっちゃ正直に表している曲だと思います。というのも、普段はマサムネさんのかっこいい部分とか、かわいい部分とか、そういうものを見せられていると思うんですけど、この曲は、マサムネさんのダサさを表している曲だと思うのです。自分のダサさに、真正面からぶつかっているところが、めっちゃすごいと思うのです。

普通の人は、自分をかっこよく見せたりします。恋愛の曲とかだったら、「俺が守ってやる」的なこと、言いたいじゃないですか。別れの曲の時も「君にはもっといい人がいるよ。これからの君の人生の幸福を願っている」とか、なんか気取りたくなっちゃうと思います。できるだけキラキラさせて、かっこいい部分だけを抜き出して、ステキな曲にしたい、と思うじゃないですか。

でも、「Na・de・Na・deボーイ」は、ダサさそのものに焦点を当てている曲だと思うのです。これが、常人ではない、天才の発想だと思うのです。この曲こそ、天才にしか作れない、マサムネさんにしか作れない曲だと思うのです。「ロビンソン」や「チェリー」は、もしかしたら他の誰かでも制作できたのかもしれませんが、「Na・de・Na・deボーイ」は、天才マサムネさんにしか作れない曲だと思います。私は、そう思っています。

では、何がどう、ダサいのか。詞を見てみましょう。




彼女は野生の手で 僕をなでてくれたんで

ごちゃまぜだった情念が一本化されそうだ

イッキ飲みエスプレッソ HP増えていってんぞ

明大前で乗り換えて 街に出たよ

キラめいて 初めての 夢心地

笑いだした ここはどこだろう?

「野生の手」とは、なんの思慮もない手、という見方を、ここではしたいと思います。野生の手、から想像できるものって、いくつかあるとは思うのですが、のちのちの歌詞から判断すると、ここは、なんの思慮もない手、という解釈がしっくりきます。

話はちょっと変わるんですけど、よく、「自然なアナタが一番」とかいうじゃないですか。スローガンとしては、まったく綺麗なセリフなのですが、でも完全に自然な状態って、ありえないんですよね。この意味の「自然なアナタ」とは、ナチュラルメイクなアナタであり、ごくごく自然な作法を身に着けたアナタであり、気取らないけど清潔な服を身に着けたアナタであり、黒髪ロングなアナタです。お肌は荒れっぱなし、お箸はグーで掴む、風呂にも入らず服は1週間同じ服、髪の毛は脂でベタベタしているのを、自然なアナタとは呼べません。「自然なままのアタシを受け入れて~!」って言おうものなら、相手が男性でも、女性でも、嫌がるでしょう。野菜だって天然自然のものですが、泥だらけの大根を納品すれば、お客様に怒られてしまいます。このように、自然とは、ちゃんとしているけれど、ちゃんとしすぎていない感がある、という感じです。

この自然とは違い、野生とは、まさになんの手も加えていない、という状態だと思うのです。自然に手が触れた、と書くと、思いやりとか優しさとかは前提にありつつも、あまり緊張せず、ほどよく触れる、みたいな感じがあります。一方で、野生の手が触れる、と書くと、そういう思いやりとか、気配りとかはない、ただ手が触れた、当たった、みたいな感じだと思うのです。

その手の動きが、たまたま、少年の頭に当たって、なでなでになった、というのが、この部分の私の解釈になります。

これがどんなシチュエーションなのかははっきりと描かれていなのですけれども、たとえばキッチンカーの中など、狭い場所での出来事だったら、どうでしょう? キッチンカーでクレープを焼いてる美人な社員さんと、そこで雇われた高校生アルバイトの僕、みたいな関係が思い浮かびます。「ごめん、ちょっとそれとって」「えっ、どれですか?」「そこの右の…、あっ、ごめん、手が頭に当たっちゃったね。大丈夫? もぅ、いきなり振り返るから……」的な。

んで、お姉さんの方はそのままクレープを焼く作業に集中するけれども、僕のほうは、心臓がドキドキして破裂しそうになっています。なんせ、女の人に触れられたのは、母親以外、はじめてだったのですから。指と手のひらの感触が、まだおでこのあたり残っています。電気が走ったみたいに、ぴりぴりしているような気がします。

少年はここに、お金を稼ぎに、アルバイトをしにきました。漫画も欲しいし、ゲームも欲しいんです。そのためにここにいます。でも、配属先はといえば、この狭いキッチンカーの社内で、美人のお姉さんと二人きり。お金のためと思いつつも、お姉さんが気になって、なかなか集中できないでいました。

そこにきて、この接触イベントが大発生です。ごちゃまぜだった情念が、ついに少年の心の中でバーンと一本化しました。

少年は、このお姉さんのために、なんでもやるつもりになりました。

一区切りついたとき、お姉さんが話しかけてきます。

「ヨーシちょっと休憩にしよう。ねえねえ、何か飲む? お店にあるものなら、なんでもいいよ。エスプレッソとか、飲んでみる? 飲むなら、淹れてあげるけど」

「あっ、あっ、お願いします……」

「そのまま飲む? 何か足す?」

エスプレッソは、濃いコーヒーです。なので通常は、カプチーノとかにして、飲みやすくして飲みます。もちろんそのまま飲む飲み方もありますが、よっぽどのコーヒー通以外は、無難に牛乳で薄めて飲みます。

お姉さんは、何かを足すことを前提にして質問をしたつもりですが、エスプレッソが何なのかがよくわかっていない少年には、この文脈が伝わりません。何を足せばいいのか、よくわからないし、それ以上何かを要求するのは、失礼ではないか…、と、慣れない深読みしてしまいます。

「いえ、そのままで……」

「そのまま飲むの? ふーん……大人だね」

お姉さんはひとりで感心しながら、少年に出来立てのエスプレッソを渡しました。普通は苦くて飲めたものじゃないはずなのに、少年はそのまま一気飲みしちゃいます。この時の少年の舌は、味なんて何もわからなくなっていました。お姉さんの色香にやられて、頭がぼうっとしてしまっていたからです。だけど、胸は幸福感でいっぱいです。口の中は苦さで充満しているのに、HPが増えていく感覚がありました。

それからは、バイト終わりまで、フワフワした夢心地の時間を過ごしました。家路をたどる道もおぼつかない様子です。明大前で乗り換えるはずが、方向を間違えて、街にでてしまいます。明大前の駅周辺は住宅街になっています。そこを中に入ると、迷路のようになっています。浮ついた気持ちのまま、見知らぬ場所まで来てしまいました。

「あれ? そういえば、ここはどこだろう…?」



ナデナデボーイ糸切れて どこまでも 駆けてく

始まりは突然なのだ 止められない もう二度と

晴れ間が見えた

この、明大前から世田谷にかけての住宅街をさまよいながら、どこまでも駆けていく様子が、このサビなのだと思います。

頭をナデナデされて、舞い上がってしまって、ずーっと夢心地のままなのです。まだまだ女性に対して免疫のない、ウブな少年なので、こうなってしまうのです。

たぶん、両腕をぐるんぐるんさせて、スキップしながら駆けていったのだと思います。この気持ちは、止められないのです。



彼女は人間の声で 僕の名前を呼んだんで

汚れまくったフィルターも全交換されたようだ

今ならいえる 알았어 乾いた風がサラッと

くすぐられてもこらえて カッコつけたよ

ゆらゆらと カゲロウが 逃げてゆく

楽しすぎる 本当にあるんだろう

ここは、夢心地だった少年が、正気に戻ったところだと思います。「○○くん、ちゃんと仕事してね」と、軽く怒られた場面だと思います。

先ほどの、野生の手、との対比のようになっています。先ほどは、なんの思慮もない、と解釈しましたが、ここは、思慮がある解釈になります。思慮がある、ということは、意図して、お姉さんはあえて彼の名前を呼んだのです。重要な用事があって、名前を呼んだのです。

お姉さんからすると、なにか、心ここにあらず、な彼の姿勢が気になったのでしょう。

少年からすると、モヤがかかっているかのようだった頭の中が、怒られたことですっきりした感じになりました。まるで欲望で汚れていたフィルターが交換されたように。

わかりました、と、今ならはっきりいえる、と言っていますが、言えていません。日本人同士なのに、お姉さんからすれば、알았어、と言われたように感じたのだと思います。少年は、不明瞭な返事をしました。狼狽してしまっています。

少年は、体裁を取り繕うために、かっこつけるのに精いっぱいです。心の狼狽っぷりを表に出さないよう、さんざん心をくすぐられているのに、こらえなくちゃいけないのです。だって、こんな動揺がお姉さんにバレたら、カッコ悪いですから。

このカゲロウは、陽炎のことだと思います。陽炎は、温度変化によって起こります。また風が吹いています。たぶん暑い日だったのでしょう。ようは、お姉さんは、薄着なのです。

そして、カゲロウが漢字ではなくカタカナなのは、自分の影も、このカゲロウに当てはめたいからだと思います。薄着のお姉さんを、僕はなるべく見ないようにしています。とはいえ、狭いキッチンカーなので、どれだけ距離をとっても、ナデナデ事件のように、動けばすぐに手足が接触する距離にいます。彼女の息遣いとかが、聞こえる距離にいます。本当はカゲロウのように、そっと遠くに逃げていくのがマナーなのだろうけれども、でも今はバイト中なので、ここを離れられない。仕方がない。そういう役得が、とても楽しいし、嬉しい。そう少年は考えています。



ナデナデボーイ糸切れて どこまでも 駆けてく

巻き巻きが壊れても あきらめない ちょうど良く

流れ星見えた

自分を制御するはずの平常心が壊れて、どこまでも知らない方向に自由にとんでいく自分を認識しています。明大前から世田谷まで歩いた時みたいに、また両腕をぐるんぐるんしているんだと思います。

お姉さんは、この少年のことを、別になんとも思ってないでしょう。ただのバイトとしか思っていないはずです。でも、この少年からすれば、お姉さんは特別です。お姉さんといる時間が、楽しくってしょうがないのです。

夜までバイトしたせいか、少年は流れ星を発見しました。普段だったら、なんでもない現象ですけれども、心の中を、お姉さんという大きすぎる存在が占拠しているせいで、こんな現象さえも、キラキラして見えています。流れ星を、ことさらに大きく話題にしたいと思うぐらいには。




という感じで解釈してみましたが、いかがでしたでしょうか?

冒頭で、ダサい、と表現した意味が、なんとなく伝わったでしょうか?

たぶん、マサムネさん自分が経験した感覚なのだと思います。マサムネさんがクレープのキッチンカーでアルバイトをしていたかどうかはわかりませんが、それに近しい状況になって、ドギマギした感覚が、ここに表現されているのだと思います。

普通は、死ぬまで隠し通したい思い出です。恥ずかしいからです。こんな感覚を、嬉々として話せる心の持ち主は、存在しないでしょう。マサムネさんだって、嬉々として話をしたいわけではないでしょう。

でも、それを詞として昇華できるところに、マサムネさんの天才性があります。そう思うのです。




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