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スピッツ「恋する凡人」でわかる、恋するとは何なのか~スピッツ歌詞解釈~

更新日:2023年7月22日




こんにちは。八百屋テクテクです。

今回は、「恋する凡人」について、解釈していこうと思います。


スピッツの曲といえば、傍らに「恋愛」というテーマを置いている曲が多いですよね。「ロビンソン」も「チェリー」も「空も飛べるはず」も、「君と僕」の関係性を歌った曲だということがわかります。スピッツファンなら、アルバム曲に入っているマイナーな名曲を思い浮かべるかもしれませんが、その思い浮かべた曲も、たぶん恋愛についての曲でしょう。スピッツと恋愛は、切っても切り離せない関係と言えるでしょう。


でも、スピッツが真正面から、「恋とはなんぞや」について、語ったものは、それほど多くはありません。(体感ですけど)

いや、それもそのはず。「恋」とは、学問ではなく、経験なのです。授業やセミナーで、テキストを開いて教えて貰うものではなく、自分で経験して、手さぐりで会得するものです。なので、「恋とは何か」なんて、人それぞれなんですよね。なので、「恋は素晴らしいものだ」だなんて軽々しく言えないし、「恋は残酷なものだ」とも言えません。そういう、哲学ありきの話ではなく、「まぁ、恋といえば昔、彼女とこんな経験をしたんですよ」的な、そういう経験ベースで恋を語ってくれる曲が多いんです。


しかしながら、この「恋する凡人」

珍しく、「恋とは何か?」について、スピッツの……詞を担当してるマサムネさんの、哲学っぽものが見え隠れしているようです。

面白いですね。さっそく詳しく見ていきましょう。



恋する凡人 試されてる狂った 星の上

やり方なんて習ってない 自分で考える

1番と2番で対比のように出てくる、「狂った星の上」と「まともな星の上」

これは一体、何を表しているんでしょう?

新選組の副長である土方歳三が詠んだ句に「しれば迷い しなければ迷わぬ 恋の道」という駄作があるそうです。駄作と評したのは、その当時の人々です。「そんなの、わざわざ句にしなくても知っているよ」という感覚でしょう。類まれなる剣の才能で、京の住民を戦慄させた鬼の歳三でしたが、句の才能には乏しかったようです。人々を、はっとさせる句は、ついに詠めずじまいでした。

さて、歳三が詠んだこの句。言われてみると不思議な話です。私たちは、恋の道とは何なのかを、実は知っています。他人から恋愛相談を持ち掛けられたら、非常に的確に、相談に乗ることができるでしょう。相談に乗る人間がたとえ、恋をしたことのないティーンエイジャーであったとしても。相手がどういう人物なのかも、これから何をすればいいのかも、素晴らしく的確に言い当てることができるでしょう。

しかしながら、相談を持ちかける側は、不思議なくらい盲目です。恋に落ちている当事者は、自分で何も決められない、何もわからない状態になっています。それがたとえ、人生経験豊富な大人であったとしても、恋に落ちてしまったら、目の前に濃霧が立ち込めたように、どこに向かって歩けばいいのか、まったくわからなくなってしまうのです。

これが「しれば迷い しなければ迷わぬ 恋の道」というわけですね。

スピッツの曲に戻りますが、恋をしているのは凡人なので、当然ながら、この凡人は狂っています。普通の人は、恋をすれば、狂うものです。でも当事者にとっては、見えている世界のほうが、狂っているわけですね。世界のすべてが狂っていて、自分一人がまともだ。そう思い込んでいます。狂った星の上にひとり、立たされているわけです。

さらに、どうしていいか、わからない状態に陥っています。こういう場合どうしたらいいか、学校の先生も教科書も、誰も教えてくれませんでした。テストの回答やギターの弾き方、スポーツのやり方は、誰かに聞けば教えてくれました。でも、気になるあの子をどう自分に振り向かせればいいかについては、まったく想像つかないし、誰も教えてくれません。自分の頭だけで考えるしかないんですね。



「変わりたい」何度思ったか

妄想だけではなく

気になるあの子に振り向いてもらうためには、どうすればいいのか。それは「何か」に変わるしかありません。「君」が憧れてくれるような、何かに。

でもそれが何なのかまでは、たぶんまだ想像ができていません。それがわかったら、君にスマートに接近できるんでしょうけれども。

たぶんここでは、モテるために、でたらめに高条件な男に、生まれ変わることを妄想しています。「頭がよくて」「スポーツができて」「歌がうまくて」「ギターがうまくて」...こんな完全無欠な男に変わりたい。と。



今走るんだどしゃ降りの中を 明日が見えなくなっても

君のために何でもやる 意味なんてどうにでもなる

力ではもう止められない

どしゃ降りの中を走る。不器用なことこの上ありませんね。

君に振り向いてもらいたければ、まず普通に声をかければいいのです。天気の話とかからはじめて、趣味や音楽の話に入り、家族や友達の話を経て、連絡先の交換、食事の約束へと繋げていく。この過程で彼女のことをよく知り、彼女が恋人に対して何を求めているのかを知ることができれば、あとはその条件に適うように、自分や環境を変えていけばいいわけです。相手をよく知って、それから自分を変える。これがスマートなやり方ですね。

でも、こういうことを言うやつは、しょせん、恋することを知らない人間です。または、赤の他人なら、そう答えを出すでしょう。まったく非の打ち所がない、とてもスマートなアプローチです。

曲の中の凡人は、不器用な男です。「最初に話しかけて、どうのこうの」と他人からイチイチ言われなくても、頭の中ではその方がいいとは気が付いているでしょう。でも最初のアプローチをミスって、嫌われて、そのまま話しかけることができなくなる、ということを恐れています。極度に怖がっています。そこで男は考えます。「ならば、どんなタイプが好きと言われてもいいように、なんでもできるようにしよう!」と。

「うおーっ」とガムシャラに、いろんなものに突っ込んでいきます。勉強も頑張ります。スポーツも、いいところ見せようと、倒れるまで全力疾走します。喉が裂けるまで歌い、手の皮が剥けるまでギターの練習をします。でも、どんなに頑張っても、それ専門で頑張っている人と比べると、並程度のものにしかなりません。だって凡人ですから。

そんな空回りの状態は、まるでどしゃ降りの中を走っているかのようです。

あるいは、足の速いライバルに勝つために、本当にどしゃ降りの中を走っているのかもしれません。足の速いライバルは、とっくに練習を切り上げて、雨宿りしているのに。

男は、君に振り向いてもらうために、こういう不器用なことをしています。

でも、男は、気にも留めません。むしろ、喜んで、それをやっています。君に振り向いてもらえるなら、という一心で。

こういう、「不器用で、非効率で、思い違いかもしれないことを、全力でやれる」というのが、「恋する」ということなんじゃないかと。「恋する凡人」は、そういうことを言いたい曲なんじゃないかなと、私は思うわけです。



そんなの凡人 思い込みで まともな星の上

おかしくなっていたのはこちら 浮き輪も失った

おかしくなっていた、と気が付いた場面です。はっ、と冷静になったのでしょう。

浮き輪も失った、ということは、今まで浮かれていた自分でしたが、その浮かれていられなくなった事態になったと想像できます。

たぶんここで、失恋か、それに近い深刻なことが起こったのでしょう。あの子にはすでに意中の相手がいる、と聞かされた、とか。



鏡に映る妙な男

リセットボタン使わず

あの子に気に入られようと、必死になって努力してきた自分。身体中がボロボロで、喉がガラガラ、手も擦り傷だらけ。そんな男が、へんに流行の服とかを気取って身につけている。鏡に映る自分が、そんな男だったとしたら、「うわ~、妙なやつだなぁ」と冷静に思うでしょう。

でも、そこで諦めません。リセットボタンで、普段通りの自分にいつでも戻ることができますが、リセットボタンを使うつもりはないようです。あの子への情熱を一旦は失いかけましたが、でも、あの子に振り向いてもらうために、もう一度自分を奮い立たせます。



そうだ走るんだどしゃ降りの中を 矛盾だらけの話だけど

進化する前に戻って なにもかもに感動しよう

そのまなざしに刺さりたい

「進化する前」とは、彼女に恋をしていた時のことです。2番の、彼女に関するモロモロを聞く前までの状態です。狂った星の上にいる状態のことです。彼女について何も知らない、ただ純粋に眩しい存在だった頃に戻るということです。

つまり、この2番のサビの時点では、彼女にはもう恋をしていない、「進化している」状態なのです。恋の盲目状態から解放され、冷静に彼女という存在を見つめることができてしまっている状態なのです。

でも、この男は「進化する前」に戻りたいと願っています。

「矛盾だらけの話」だと思うのは、恋をして盲目になっている自分より、恋をしていない自分のほうが、つまり、「進化前」よりも「進化後」のほうが、より、はるかに物事の判断が上手でしょう。もしかすると、その冷静さで、彼女を計画的に攻略することだって、できたかもしれません。

でも、「何もかもに感動」できたのは、進化する前です。彼女に関する、何もかもに感動できたのは、進化する前なのです。



消えたフリした炎でも 火種は小さく残ってた

君みたいな良い匂いの人に 生まれてはじめて出会って

一度は消えたと思ってた、あの子に対する情熱の炎は、男の中で小さく残っていました。

そしてそれは、これから大きくなろうとしています。

なぜか。君の「良い匂い」に惹かれたからです。恋とは、何か数字やステータスに現れるような、そういう頭でわかるものではありません。「匂い」に惹かれる、そんな不器用なものであると、表現されています。

条件とか、事情とか、環境とか、そんなもので諦めかけた恋。でも、その炎を蘇らせたのは、条件を覆したからでも、事情が変わったからでも、環境を変えたからでもありません。ただ君の匂いを感じたからです。そんな理不尽で不器用なものが、恋だと思います。



走るんだどしゃ降りの中を ロックンロールの微熱の中を

定まってる道などなく 雑草をふみしめて行く

これ以上は歌詞にできない

ロックンロールは、激しいリズム、つまり心臓の鼓動を表しているんじゃないかなと。

彼女を思う強い気持ちが、心臓をどきどきと強く打たせて、どしゃ降りの中を走らせている。そんな様子が描かれています。

定まっている道は、恋をしている人間の前には現れません。道なき道を、雑草が生い茂る道を走らなければいけません。

狂って、見えなくなった道の先は、誰にも描くことができず、歌詞にすることができないのです。



という感じで、解釈してみましたが、いかがでしょうか?

歌詞を通じて、「恋する」とは何か、ということを、感じ取れます。

土方歳三の句のように、ひとによっては、凡庸に映るかもしれません。根本にある「恋をすればみんなおかしくなるんだよ」というテーマは、まあ、誰もが知っていることです。

でも、同じテーマでも、この美しい詞は、どうでしょう?

この凡庸なテーマを、こんなに美しい詞で表した人間が、かつてこの地球に存在したでしょうか?

恋とは、ダサいものです。人間を弱くするものです。不器用で理不尽で、やな部分ばっかり目立ちますが、同時に、美しく、感動させてくれる一面も持っています。

この曲は、むしろダサさや弱さ、不器用さ理不尽さに焦点を当てています。

なのに、こんなに私たちの心を熱く、感動させる曲となっているのもまた、恋の不思議さというものですね。





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