こんにちは。八百屋テクテクです。
今回は、スピッツ「夕焼け」について解釈していきたいと思います。
といっても、自分でそう言っておいて、「解釈?」という感じです。これまでのスピッツの曲は「こう解釈できるんじゃないかな~」というモノがありました。言葉の裏とか、底とかを見つめて、連想して、そうして導き出してきた答えを、解釈として載せてきました。
ところがこの詞については、そういうのは、どうもなさそうです。
ただ「夕焼けが綺麗だね。君のそばにいたいよ」ということのみを、主題にした曲なんじゃないかなと。
この辺の具合を説明するのが難しいんですけど、例えば普通の曲の作り方としては、「夕焼けに佇む君は綺麗だ」などと、夕焼けを背景として、君への思いにつながるような語りをすると思います。でもこの詞は、夕焼けの美しさと、君への思いを、無理やり関連づけるようなことはしていません。見たまんま、思ったまんまを、言葉にしています。
この辺は、言語として考えるから、変になるのだと思います。「夕焼けが綺麗だね。君のそばにいたいよ」と言われると、「えっ、夕焼けが綺麗なことと君って、何か関係あるの?」と普通は思ってしまいます。実は、もともとこの二つの事象は、頭の中では両立しています。でもそう言語にして発信した途端に、受け手側は勝手に、語句の意味を関連付けしようとしてしまうのです。
頭の中では、「君が好き」って感情と、「かつ丼食べたい」という感情は、平行していると思います。が、それを同時に言葉にしてしまうと、「えっ?」って思われてしまいますよね。それと同じことです。
ただ、かつ丼の例と違うのは、「夕焼けが綺麗だね。君のそばにいたいよ」という感情は、聴いている人の心を打つと思います。なんの関連もないかもしれないけれど、夕陽の美しさに見とれていることと、君が好きだと思っていることが同時に発生しているという状況は、とても感動的です。語句の意味ではなく、感情として捉えることが、この詞を理解する上では大事なのだと思います。
それでは、詞を順番に、観ていきましょう。
言葉でハッキリ言えない感じ 具体的に
「好き」では表現しきれない 溢れるほど
例えば夕焼けみたいな サカリの野良猫みたいな
訳わからんて 笑ってくれてもいいけど
「言葉でハッキリ言えない感じ」とか、「訳わからんて 笑ってくれてもいいけど」とありますとおり、マサムネさんは冒頭で「今から言語では語れない領域の話をしまーす」と宣言してくれています。
夕焼けの美しさって、言葉で表現するのって、めちゃくちゃ難しいですよね。同じように、「君が好き」っていう感情もまた、表現するのがめちゃくちゃ難しいんです。「好き」っていう便利な言葉があるから、みんなそれに頼ってしまうんですけど、使い古されてしまって、それでは表現しきれない、と思っています。
なので、あえて筋道を立てて使用する論理的な言語ではなく、感覚で言葉を並べていく、詩文のような使い方で、気持ちを表現しようとしています。
「夕焼けみたいな」「サカリの野良猫みたいな」と、思いついた言葉を並べていきます。
このマサムネさんの奇行に、付き合ってくれている君は、いったいどんな反応をしているのでしょう? あまり表情が伺えませんけれども、少なくとも邪魔をしないようには、してくれているみたいです。今のところおとなしく、黙って聴いていてくれているのだと思います。
君のそばにいたい このままずっと
願うのはそれだけ むずかしいかな
終わりは決めてない 汚れてもいい
包みこまれていく 悲しい程にキレイな夕焼け
ところが、この奇行にいつまでも付き合ってくれるほど、女の子は気が長くありません。いくら夕陽が綺麗でも、5分も経てば飽きるものです。女の子は、あくびでもしながら、こんな会話をしていることでしょう。
「ねえ、いつまでここにいるの? そろそろ日が暮れるけど?」
「終わりは決めてない」
「暗いと虫とか寄ってくるし、ぬかるんだ場所とかも見えにくくなるから、足元が汚れちゃうよ」
「汚れてもいい」
「私はイヤかな。お腹もすいたし。アナタもう少しここにいたいのなら、私だけ先に帰るけど?」
「君のそばにいたい このままずっと 願うのはそれだけ むずかしいかな」
こんな会話をしている男女を、泣きたいほどものすごく綺麗な夕暮れが染め上げている光景。エモいですね。
いろいろ違いはあるけど それも良いところ
予想に反する出来事 待ちかまえて
小馬鹿にされちゃうときも 気マズくなっちゃうときも
どこからか暖かい光が 差してた
ここは、君とマサムネさんとの性格の違いを表している部分だと思います。マサムネさんは詩人なので、この「夕焼け」の構想を考えている間は、ずっと普通ではない突拍子のないようなことを口にしたりします。
なんの脈略もなく「サカリの野良猫」なんて、口にしたりします。
それが、例えばマクドナルドで店員さんに注文をしようとしているときに、マサムネさんの口から不意に出てきたら、どうなるでしょう? 隣にいた彼女は、「げえっ!」って思うに違いありません。彼女にとってみれば、予想に反する出来事でしょう。
予想に反する出来事は、マサムネさん側にも起こりうることです。頭の中では、「夕焼け…美しいなぁ…」みたいに考えているとき、「マック美味しいなぁ!」って彼女がハンバーガーにパクついていたとしたら、「もうちょっとさ、夕焼けとか、見てみない? せっかく綺麗な夕焼けになってるんだからさ」と、自分と調子の合わない彼女を、迷惑に思うことでしょう。
彼女は、小馬鹿にしてきます。
「夕焼けを眺めるのは、もういいじゃん。マサムネさんは、天才なんでしょ? 良い感じの詞、そろそろ出来上がってるんじゃない? いけるっしょ」
「おい、そういうこと言うのはやめてくれよ。今ちょっと集中して、詞を真面目に作ってるんだからさ」
「真面目に作った結果が、サカリの野良猫なのよね? 私には、訳がわからないけれど」
「いや、うん……」
と、小馬鹿にされちゃったり、気マズくなっちゃったりします。
その時間も、夕焼けの暖かな光が、二人を包んでいます。
君のそばにいたい 想っていたい
他には何もない 生まれてきたよ
遠くから近づいてる 季節の影を
忘れさせてくれる 悲しい程にキレイな夕焼け
そんな、いろいろ違いがある彼女だけれど、マサムネさんは彼女のことが大好きなんです。その気持ちが伝わってきます。
彼女と一緒に、夕焼けを眺めている場面です。先ほどまで、彼女との会話を繰り広げていたらしい痕跡が詞の中にありましたけれども、ここには、なんの言葉もありません。ただ、キレイな夕焼けを眺めながら、「君のそばにいたい」ということだけを、願っています。
想いも含めて、とてもキレイなシーンだと思います。
という感じで解釈してみましたが、いかがでしたでしょうか?
めちゃくちゃ綺麗な夕焼けを表現するために、あえて君との性格に「違い」を明示し、詞の中をキレイ一色にならないようにするという、テクニックを使っています。そのことで、詞がクッキリしますし、リアリティがでてきます。
君との小馬鹿な会話は、夕焼けの綺麗さを表現するのに、とっても大事なことだったのです。
逆に言えば、それだけ圧倒的にキレイなものを表現したいという気持ちが、マサムネさんにはあったのだと思います。マサムネさんの技術のすべてを駆使して、言語外にある感覚まで使用して、作り上げた「夕焼け」。その工程を追うと、かなり大事にしなくちゃいけない詞なのだということが、わかってくると思います。
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